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なぜ、オヤジたちはこの店に集うのか? 東京・人形町の甘酒横丁「焼き鳥 十五」

 森川 滋之
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東京・人形町の甘酒横丁にある「焼き鳥 十五」は、常連でも予約をしないと入れないことがあるという。実際、雨の月曜日にもかかわらず、夕方7時には1階も2階も満席になっていた。無口で実直な店主に代わって、常連さんが十五の魅力を語ってくれた。会社も自宅も遠いのに、多いときは週に数回来ることもあるという。なぜ、オヤジたちはこの店に集うのか?

実のところ、僕はオヤジには2種類しかいないと思っている。酒を飲むときにウンチクをいうオヤジと、ウンチクなんていいから飲めやというオヤジ(ちなみに酒場に来ない人は僕の定義ではオヤジではない)。そしてこのコラムは、アンチ・ウンチク派のために立ち上げたものである。グルメなウンチクを知りたい方は、他を探していただけたらと思う。

ということで、ウンチク派がいなくなったので、ウンチクオヤジの悪口でも始めよう。マンガ「レモンハート」のマスターぐらいになると、あれは"博覧強記"というのであって、ウンチクの域を超えている。あそこまでいけば尊敬に値するのだが、問題は"半可通"というやつである。でも、いました東京・銀座にも。

やきとり屋じゃないが、銀座7丁目にある知る人ぞ知るワインバーTでのこと。ここはマスターが年に5000杯も試飲して、安くてうまいワインを探してきてくれる店だ。もちろん、ここのマスターは正真正銘の博覧強記で、ウンチクではなくワインを楽しむための最低限の情報だけ伝えてくれる(ウンチクを語っているうちにワインがぬるくなるし)。それは味が膨らむ情報だ。

僕はワインのことを勉強する気がさらさらないので、Tに行ったら、いつも方針だけ伝えておまかせ。そういう客がこの手の店では好まれるという計算もあるのだが。

ところが、こういう店にも来てしまう、半可通が。クリスマスイブだったか、中年男性と女の子のカップルが入ってきた。イブでもあり、男のほうはやっぱり「決めたい」と思ったのだろう。しょうもないワインのウンチクを語り出す。ワインの勉強なんかしていない僕でも知っているような話だから、浅いことこの上ない。マスターもちょっとイラッとしながら聞いているようだった。で、あのセリフを言ってしまった。「ロマネ・コンティある?」。

僕は、思わずカウンター席から転げ落ちそうになった。店のコンセプトと真逆なものを頼んでいるわけで、どうして紛れ込んじゃったんだろうと......。その後、店の方針の説明なのか、説教なのか、たぶん両方だと思うが、マスターが延々と話をしていた。このコラムは、こういうのがかっこ悪いなと思うオヤジに読んでほしいと願うのだ。

店は面構えで選ぶ

さて、本題。なぎら健壱さんが、名著「酒(しゅ)に交われば」(文春文庫)に、知らない店に一見(いちげん)で入るときの基準として「すがれた、年月を感じる店」に入ればいいと書いていた。僕もそうしているので、よく分かる。簡単な話だ。長く続いている店は、ファンというか常連というかそういうお客がついている。なので、間違いは起こりにくいということだ。潰れるとしたら代替わりとか、後継者がいないのに店主が亡くなったとかそういうタイミングだけだろう。

ただそれだけで選ぶと、時には店主が常連ばかり大事にしている店に当たるんじゃないかと思う人もいるだろうが、そんなことはあまりない。「一見さんお断り」という店もあるが、それはそういうシステムだから仕方ない。

特にやきとり屋は、その手の失敗が少ない。高級焼き鳥店(ちなみに「やきとり」は牛・豚・鶏の串焼き、「焼き鳥」は鶏のみという本当なのか都市伝説なのか分からない定義をこのコラムでは採用)も存在するが、基本は庶民の店。堅苦しい店、排他的な店ははやらないのだろう。実は、このあたりのことが今回の取材でなおさらはっきりした。

ということで、基本は「すがれた、年月を感じる店」を探せばいい。人形町・甘酒横丁の十五もそんな基準で見つけた店だ。

真っ赤なちょうちんが夕方の薄暗さに映える

> "つなぎ"で入ったのに腰を据えてしまった
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