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流氷がもたらす動物たちの理想郷「知床」 海・川・森が一体となった生態系

 小野 正惠
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北海道の東端、海に向かって細長く突き出した知床半島。アイヌの人々が「地の果て」と呼んだこの地では、海岸線の切り立った断崖、原生林に囲まれた山や湖沼群が太古の姿を残す。海ではサケやクジラが国境を越えて回遊し、内陸の森林ではヒグマやエゾシカが気ままに歩きまわる知床では、ほかの地域には例を見ない、きわめて豊かな生態系が保たれている。

アイヌの人々は「地の果て」と呼んだ

知床半島は長さ約70kmで、半島の根元部分の幅は約25km。歴史作家の故・司馬遼太郎が、「剣の抜き身が海に突き出したような形」と形容したように、細長い半島だ。北側はオホーツク海に面し、南側は根室海峡をはさんで国後島を望むこの場所は、先住民族であるアイヌの人々にとっては、「シリエトク(地の果て)」だった。これが、現在の地名の由来である。

上空から見た知床半島。手前のウトロ側には荒々しい断崖が、奥の羅臼側には穏やかな海岸線が続く [写真:知床斜里町観光協会]

中央部には、半島最高峰である標高約1661mの羅臼岳がそびえ、1500m級の知床連山が半島を東西に貫く。原生林に囲まれて点在する知床五湖や羅臼湖などの湖沼群が、こうした山々の稜線を湖面に映し出す。これらの山や湖沼群は、いずれも火山活動で生まれたものだ。

知床連山は25万年前の火山活動で誕生した。5つの湖が山の稜線を映す光景は、知床を代表する景観だ [写真:知床財団]

一方、海岸部に目を転じれば、長さ120mにも及ぶ断崖絶壁やユニークな形状の奇岩が連なり、「カムイワッカ湯の滝」「フレペの滝」などと名付けられた多くの滝から、水が海に注ぎ込む。これら海岸沿いの景観は、いずれも波浪や流氷の浸食によって形成されたものである。

カムイワッカ湯の滝は活火山の硫黄山を源流とし、いくつもの滝を形成しながら最後は海に注ぐ。途中の滝は天然の露天風呂としても知られる [写真:知床斜里町観光協会]

旅行会社のパンフレットなどでは、世界遺産知床の自然の美しさを謳ったものが多い。確かに、火山や浸食によって生まれ、緑に覆われた知床の景観は、雄大でかつ美しい。だが、この地が世界遺産に登録されたポイントは、実は景色ではない。重要とされたのは、この地で暮らす生き物たちが織りなす「生態系」と「生物多様性」である。そして、この2つの重要なポイントに大きく貢献しているのが、冬の風物詩である流氷だ。

> 知床に"生"を与える「冬の使者」
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