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魅惑の迷宮、モロッコのめまい フェス――世界遺産の古都で“美”に翻弄される

 小野 正惠
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北アフリカ北西部に位置するモロッコ王国には、9つの世界遺産がある。すべてが文化遺産。地中海と大西洋とサハラ砂漠に囲まれたこの国は、西側を走ればイタリアのトスカーナかと思うほどの緑豊かな田園風景が広がり、アトラス山脈を越えた東側には、茶色一色の砂漠地帯が横たわる。先住民のベルベル人が約3割、アラブ人が約6割強。そのうちイスラム教徒が9割を占めるが、キリスト教もユダヤ教も受け入れる。都市では、アラビア語とベルベル語とフランス語が飛び交う。日本とほぼ同じ国土に、異なる要素が融合してなお調和する国。それが「日の没する地の王国」モロッコだ。その世界遺産の中から、第1回として、フェスを紹介しよう。

「モロッコ、行ってみたいなぁ。ドバイの知人が言っていたんですよ。モロッコの女性をひと目見た瞬間、ドバイの男は骨抜きにされ、ドバイの女性に目を向けなくなる。それほど美しい、と」

JAGZY世代の日本人医師の話だ。ひとたびその瞳に見つめられたら、自己喪失、前後不覚に陥るほど、魅力的なモロッコ人女性。だが、女性だけではない。この国では世界遺産も同様に、そこを訪れた人をとことん惑わす。過去に多くの世界遺産を訪れたが、モロッコほど飛びぬけた吸引力と、立ちくらみしそうな魅惑に満ちた町を他に知らない。

その象徴が、フェス----9世紀につくられたモロッコ最古のイスラム朝の王都である。日本からはパリ経由か、ドバイかドーハを経由して、いずれもカサブランカや首都ラバトに入り、そこから鉄道や車での移動になる。

フェスは、旧市街全体が世界遺産に登録されている。フェス・エル・バリと呼ばれる旧市街には、車や信号、横断歩道やガードレールといった"現代の遺物"がまったくない。

車で入れる最終地点まで行くと、どこからともなくロバを引く老人が近寄ってくる。宿までリヤカーで荷物を運んでくれるのだ。確かに石畳はでこぼこで、スーツケースとはすこぶる相性が悪い。ロバに荷物を託したら、歩みの速度はあくまでロバペース。この瞬間、自分が日本人であるという意識が遠のいていく。そう、日常生活とは離れた、異文化の地を感じ始めるのだ。

> 極めて"秩序ある迷路"に迷う
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