日経ビジネス定期購読者のためのライフスタイル誌Priv.よりスペシャルコンテンツをお届けします。 (日経ビジネス Priv.プライヴ 2016年 秋号より転載)

私の「次の家」、「理想の住まい」考

結婚してすぐに住んだマンション。幼い子どもたちを育てた家。それぞれに思い入れも思い出もあるけれど、いつかは─と
私たちは夢見る。誰のためでもない、自分のため、自分にとって最上級に美しく愛しく、心地いい家を建ててみたいと。でもそれは、どんな家だろう。どのように考え、何を大切にすれば「私の理想の住まい」に近づけるのか。近代建築の巨匠が女性のために建てた家、いくつもの美しい家を作り上げてきた女性が考える「次の家」、自然を取り入れた心地いい住まいからそのヒントを探ってみよう。

ご協力いただいた方

建築ジャーナリスト
淵上正幸 さん

海外建築家や建築機関との密接な情報交換により、雑誌・書籍の編集をはじめ建築ツアーの企画等を手掛ける。『世界の建築家51人─コンセプトと作品』(ADP)、『ヨーロッパ建築案内』『アメリカ建築案内』(TOTO出版)など著書多数。
www.synectics.co.jp

建築家・景観デザイナー
とよだみき さん

慶應義塾大学経済学部卒業後、カリフォルニア州立大学ロングビーチ校に留学。ガーデンデザイナーとして活動をスタートし、現在は別荘・個人住宅の建築デザインを中心に活動する。著書に『ガーデン&アーキテクチャーデザイン』『ガーデンデザイン・レッスン』(講談社)がある。
www.officetoyoda.co.jp

パフ・コーポレーション代表
甘露寺芳子 さん

結婚後サンフランシスコに約10年暮らし、帰国後の1988年に家具とインテリア小物のショールーム「インテリアブティック・パフコレクション」をオープン。洗練された本物志向のコーディネートで注目される。著書に『ie家─四季のインテリアを楽しむ』(世界文化社)。
www.puffcorp.com

part 1. Imagination
過去に学び、未来を描く

1-1 自分の“理想の家”とは?

「私は結婚して52年の間に、アメリカと日本で住まいを16回変わっています。そのうち、自分たちで家を建てたのが4回。今暮らしている初台の家も、三崎の別荘も愛しい大好きな住まいですけれど、それでも、『次はどういう家をつくろうかしら?』と頭の中で図面を引くことが、よくあります」と、インテリアショップ「パフ・コレクション」のオーナーで、洗練された上質なインテリアコーディネートで高く評価される甘露寺芳子さんは語る。

家は1、2回住み替えただけでは、本当に満足いくものは手に入らないといわれる。また人生のさまざまな時期に応じて、ふさわしい住まいのあり方も変わってくる。だからこそ自分が本当に満足できる、“理想の家”を建てたいと考える女性はきっと多いのだろう。

1-2 主語を“I”にした家づくり

そうしたセカンドライフを見据えた40~50代のクライアントから依頼を受け、数多くの個人住宅や別荘を手がけてきた建築デザイナーのとよだみきさんは、「家庭をマネジメントする女性にとって、住まいは“We”や“You”という主語で考えがちです。家族のため、夫や子どものために空間をどう使うか。その発想を切り替え、主語を “I”にして住まいを考えてみてはどうでしょう」とアドバイスする。

“私”はその家で何がしたいのか。何をしている時が、“私”は最も幸福か。「そうした“時間”を軸にイメージを膨らませ、それを“空間”に落とし込むと、自分にとって理想の住まいが見えてきます」(とよださん)。たとえば甘露寺さんは、「キッチンに立ったとき、目に入る光景が美しいことが何より大事。今の住まいでは庭の緑を眺めながら片付けができるので、日々、気持ちに余裕が生まれます」という。夜ゆっくり休むことが大事ならば、ベッドルームの広さや快適さを最優先に考える。また究極的に使いやすいクローゼット&シュークローク、あるいはパウダールームをセットに考えるのも楽しそうだ。

1-3 女性のための名建築にヒントが

そうした女性のための究極にシンプルで美しい住まいは、世界の名建築のアーカイブにも存在する。たとえば今年、世界文化遺産の登録が決定したことでも話題のル・コルビュジエが、スイスのレマン湖畔に建てた「小さな家」。現地を取材した経験もある建築ジャーナリストの淵上正幸さんは、「『母の家』という名称でも知られるように、コルビュジエの母親が快適に暮らせるように考え抜かれた住まいです。床面積60m2(18坪)という小規模な家ですが、質素ななかにも生活に必要な機能を十分に備え、それぞれの空間がゆるやかにつながった回遊動線がすばらしい」と語る。

家事にかかる労力も最小限ですむ暮らしやすい家だったおかげか、彼女は101歳で亡くなるまで元気で暮らしたといわれる。もう一軒は、やはり近代建築の巨匠であるミース・ファン・デル・ローエが、シカゴの独身女性医師のために設計した「ファンズワース邸」。「この家も、間仕切り壁や扉、また床に段差のない大きなワンルーム。キッチンやバスルームなど水回りと機械室が中央に置かれた、究極的にシンプルでミニマムな住まいです」(淵上さん)。これだけは譲れないというポイントに空間を使い、あとは思い切って縮小する、いわば空間の断捨離を考えるとシンプルで無駄のない住まいが完成するはずだ。そして建築としても美しい“作品”が手に入るといえるだろう。

Aha! 見学できる「女性のための名建築」
ル・コルビュジエの「小さな家」 はミュージアムとして一般公開されている。3~6月は日曜のみ、7~8月は金曜〜日曜開館。冬期休館。(www.myswitzerland.com/ja/villa-le-lac.html
シカゴ郊外にあるファン・デル・ローエの「ファンズワース邸」は有料ガイドを利用しよう。事前予約が必要。問い合わせは(farnsworthhouse.org/tours)まで。
part 2. 自然を取りこむ美しい暮らし
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