日経ビジネス定期購読者のためのライフスタイル誌Priv.よりスペシャルコンテンツをお届けします。 (日経ビジネス Priv.プライヴ 2016年 夏号より転載)

世界一贅沢なキッチンを手に入れる

キッチンの使いやすさ、居心地のよさの基準は人によってさまざまだ。つまり、自分だけの理想を実現したキッチンこそが、本当の意味で、自分にとっての世界一贅沢なキッチンだといえるだろう。しかしながら、理想のキッチンを思い描き、具現化するのは容易なことではない。なぜなら、キッチンが暮らしの中心となり、もてなしの場としても活用される現在、「どんなキッチンにしたいか」を考えることは、「どのように暮らしたいか」を考えることでもあるからだ。自分の暮らしにじっくり向き合い、世界でいちばん贅沢なキッチンを手に入れるために、するべきことは何だろう?

ご協力いただいた方

料理研究家
門倉多仁亜さん

日本人の父とドイツ人の母をもち、日本、ドイツ、アメリカで育つ。国際基督教大学卒業後も、東京、ロンドン、香港で暮らし、ロンドンのコルドンブルーでグランディプロムを取得。2009年に夫の実家鹿児島に家を建て、東京と行き来する。
www.tania.jp

リブコンテンツ代表
田原由紀子さん

一級建築士。早稲田大学建築学科を卒業後、大手建設会社に勤務。より暮らしに近い設計を手掛けるため、設計事務所、オーダーメイドキッチンメーカーに勤務した後(株)リブコンテンツを設立。女性のみ4名のスタッフとともに運営。
libcontents.com

キッチンジャーナリスト
本間美紀さん

早稲田大学大一文学部卒業。インテリア専門誌『室内』編集部に9年間勤務後、暮らしまわりのフリーエディター&ライターとして活躍。企画・編集・執筆を手掛ける『REAL KITCHEN & INTERIOR』シリーズ(小学館)が好評。
blog.excite.co.jp/kitchen-journal/

part 1.世界のキッチンのトレンド考察
最新のデザインとニーズ

1-1 キッチンは家の中心

キッチンのトレンドは、ファッションのようにシーズンごとに目覚ましく変化するようなものではない。しかしながら、テクノロジーの進化やライフスタイルの多様化によって、緩やかに変化している。10年単位の大まかな流れとして挙げられるのが、家の中で、キッチンの優先順位が上がっているということ。日当りや景色のよい、いわゆる“いちばんいい場所”にキッチンを配置する人が増えているのだ。オーダーキッチンのある暮らしを提案するリブコンテンツ代表の田原由紀子さんは「キッチンで過ごす時間が意外に長いということに気づいている方が増えています。

“快適であること”がいかに人生に必要かを踏まえ、では、キッチンを快適にしようという結論に至るのでしょう」と語る。料理研究家の門倉多仁亜さんも鹿児島に家を新築する際、最初に上がってきた設計図を見て、キッチンの場所を中心とした変更を依頼したそう。「日当りなど、いちばん条件のよい場所にキッチンをつくりたかったので、プロの設計士のかたが描いてくださった図面を参考にしながら、自分で間取り図を手描きして、ご相談しました」。

1-2 “家具化”するキッチン

キッチンを「家の中心」と考えると、ゲストにも開かれたもてなしの空間としてキッチンをとらえることに繋がる。そのため、インテリアとしての重要性が高まり、機能面だけでなく、家具と同様、デザイン性が求められる。ここ5年ほどで「キッチンが家具化している」と言うのは、各国の見本市を巡り、最新のキッチン事情をよく知るキッチンジャーナリストの本間美紀さんだ。

「キッチンのワークトップがそのままのびてダイニングテーブルになったり、リビングボードのようなデザインの収納に、食器やキッチンツールだけでなく、本やオブジェなども一緒に置かれたりするキッチンが目立つようになってきました。オープンキッチンが当たり前になるなかで、ダイニングやリビングとのコーディネートが成熟した結果だと思います」。田原さんも「設計したキッチンの現場で、居合わせた職人さんが、目の前にあるにもかかわらず“この家にはキッチンがないの?”とおっしゃったことがあります。リビング・ダイニング空間のインテリアに、キッチンをうまく溶け込ませることができたのかなと嬉しく思いました」と言う。

1-3 最新トレンドは“重厚感”

毎年4月に開催される世界最大の家具見本市「ミラノサローネ」では、1年ごとにキッチンと照明の見本市が併催される。2016年はキッチンの年。各社の最新作が発表された。「ガラリと変わったのは、色と素材感です。ここ数年は白を中心とした明るくクリーンなカラーリングと、ガラスなどのスムーズな素材感が中心でした。今年は、天然石やセメント、銅などの個性的な素材や、いぶし銀のような加工など、よりワイルドな素材感と、重厚感のある色使いが目立っています」と本間さん。

ワークトップやパネルなどで使用される、変わらず人気の高い木材も同様に、スムーズで明るいものから、より素材感が際立つ、濃い色に。これは、「インテリア全体のトレンドと同じ方向性です。キッチンのデザイントレンドは、インテリア全体のトレンドの2〜3年後に表れることが多いと考えています(本間さん)。キッチン機器メーカーも、このトレンドに追随しているようだ。「日本での発売は未定ですが、ドイツのミーレからは、従来のステンレス、黒や白といったカラーリングに加えて、墨黒のようなニュアンスのあるダークグレーの新作が発表されました」。

Aha! キッチンで使われる素材あれこれ
キッチンで使用される人工素材には、そのネーミングから実態がわかりにくいものもある。「人大(ジンダイ)」と呼ばれる「人工大理石」には、実は大理石の成分は入っておらず、アクリルやポリエステル樹脂などで作られている。一方、「人工水晶」、「クォーツストーン」などと呼ばれる素材は、粉砕した水晶を樹脂と混ぜて加工したものを指す。
part 2. 私らしいキッチン探しの取捨選択
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