日経ビジネス定期購読者のためのライフスタイル誌Priv.よりスペシャルコンテンツをお届けします。 (日経ビジネス Priv.プライヴ 2015年 冬号より転載)

ウイスキー&スピリッツの新潮流をキャッチする

ジャパニーズウイスキーがブームになり、人気の品は入手困難になっている。その一方で、モルトウイスキーやプレミアムバーボンを含む多様なウイスキーのブームも静かに続く。そしてウイスキーと同様に楽しまれ、カクテルのベースともなるのがスピリッツと総称される、ウオツカ、ジン、ラム、テキーラだ。麗しい姿で楽しませるカクテルにも、驚くような進化の波が押し寄せている。今、ウイスキー&スピリッツが注目される背景を探って魅力を再発見し、冬の夜、バーで、家で、“命の水”とも呼ばれた蒸留酒を、自由にさまざまなスタイルで楽しみたい。

ご協力いただいた方

アンダーズ 東京 ルーフトップバー マネージャー
リンジ・ウォレン さん

南アフリカ出身。18歳でバーの仕事に就きカナダに渡る。その後渡英しロンドンで10年間カクテルの経験を積み、未知の文化との出会いを求めて来日。2014年の同ホテル開業時より現職。
restaurants.andaztokyo.jp/jp/rooftop-bar

株式会社三越伊勢丹 和洋酒バイヤー
髙橋隼人 さん

2004年伊勢丹に入社し、婦人服、チョコレートなどのバイヤーを経て現職。全国の三越伊勢丹で扱う酒関連の「オンリーエムアイ」商品の選定も手掛ける。
isetan.mistore.jp/

本坊酒造株式会社 信州マルス蒸留所 所長
竹平考輝 さん

長野県出身。系列会社の南信州ビール株式会社に入社し、2012年より現職。地元で行なわれる酒と食のイベントに尽力。各地で酒販店やウイスキーファン向けセミナーを行う。
www.hombo.co.jp/marswhisky/

スピリッツ&シェアリング株式会社 代表取締役 MIXOLOGYオーナー
南雲主于三 さん

1998年にバー業界に入り、2006年に渡英、Nobu Londonなどで修業しながらロンドンでカクテルを学ぶ。帰国後、09年に会社を設立。東京八重洲と赤坂で3店舗のバーを展開。
r.goope.jp/spirits-sharing/

part 1. 大地の恵みと錬金術が生んだ“命の水”は、今
ウイスキー&スピリッツの歴史

1-1 紀元前に端を発し、世界各地へ

酒類は製造法から、醸造酒、蒸留酒、混成酒の3つに分類される。ビール、ワイン、日本酒などが醸造酒、その醸造酒を蒸留したものがウイスキー、ブランデー、焼酎などの蒸留酒となる。混成酒は、醸造酒や蒸留酒に花や果実などの風味を加えたもので、果実酒やリキュールを指す。蒸留酒の起源には諸説あり、紀元前すでにアイルランドでケルト人が、穀類の酒を蒸留していたともいわれる。

蒸留技術は、アラビアで錬金術とともに洗練されて東西に伝播し、14世紀以降、世界各地で土地の農作物などを原料に蒸留酒がつくられた。蒸留によってアルコール度数が高まり、“燃える水”ともいわれた蒸留酒は、当初、不老不死や長寿に効く薬とされたことから、ラテン語、ケルト語、ロシア語でも、ウイスキーやウオツカの語源は「命の水」だ。

1-2 大量生産は19世紀から

蒸留酒のうち、4大スピリッツと呼ばれるのが、ウオツカ、ジン、ラム、テキーラだ。ウオツカは、穀類を原料にロシアやポーランドで生まれ、ジンは、穀類の蒸留酒にジュニパーベリーと草木の風味をつけたもので、オランダで誕生した。ラムはサトウキビを原料にカリブの島々で、テキーラはアロエに形状が似た竜舌蘭を原料にメキシコで生まれた。

19世紀に優れた蒸留機が登場して以来、スピリッツの製法は磨かれ、大量生産も可能になった。21世紀の今、スピリッツも進化し多様化している。アンダーズ 東京のルーフトップバーのマネージャー、リンジ・ウォレンさんによれば、「バラやコリアンダーからキュウリまで、多彩なフレーバーのジンも登場しています。ビールやウイスキーの流行と同様に、クラフト的、職人的につくられる蒸留酒もトレンドとなり、新作カクテルにも幅広く活用されています」。

1-3 はじまりはハイボール

ワインやビールは日常的に親しまれる一方、ハードリカーとも呼ばれる蒸留酒は、特別なときに飲む酒という印象もある。だが現在、「大人が夜に飲む酒というイメージではなくなりました」と語るのは、三越伊勢丹の和洋酒バイヤー髙橋隼人さん。そしてウイスキーブームは今、花開いている。

「きっかけは、ハイボールの流行からです。居酒屋で“とりあえず生ビール”から、“まずはハイボール”へと変わり、ビールより爽快と感じる人も多くなりました。ジンジャーやコークハイボールなどアレンジも豊富で、人気は定着しています。結果、ウイスキー自体に関心が高まり、産地の違いを楽しむマニアックな愛飲家も増えました」(髙橋さん)。静かなブームが続いていた、スコットランドやアイルランドのシングルモルト愛好家の存在も、ブームの追い風になったようだ。

信州マルス蒸留所所長の竹平考輝さんは、「ハイボールがよく飲まれるようになったのは、ビールよりも体にいいと言われたこともきっかけでした」と語る。

そして、「ウイスキーブームの流れで、蒸留酒全体に関心が高まりました。例えば、ラムは暑い国で生まれ、つくってすぐに飲む酒でしたが、最近では英国などの酒造メーカーが、自社セラーで熟成させた、芳醇なラムも登場しています。“熟成”は酒に限らず、複雑な風味を理解して楽しむ日本人の嗜好にあっているようですね。また、カリブ海ならラム、メキシコならテキーラと、自分が旅した国の雰囲気や文化を、酒で楽しみたいという人もいます」(髙橋さん)。蒸留酒を日常的に楽しむ人が確実に増えている。

Aha! 女性も愛でるウイスキー、シングルモルトの魅力
英国最古のワイン&スピリッツ商ベリー・ブラザーズ&ラッド社のスピリッツマネージャー、ダグラス・マクアイヴァーさんによれば、「今、英国ではウイスキーが若い世代にも人気。とりわけ女性がシングルモルトを好むようになりました。女性は香りに対して独特の感性があり、香りや味の繊細さを楽しむようにストレートやオンザロックで飲まれます」。
part 2. 日本のウイスキー礼賛
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