Photography by Yoshiaki Toda

戸田嘉昭の写真レッスン 人生の美しい切り撮り方
プリントで表現の面白さに出合う

日経ビジネス定期購読者のためのライフスタイル誌Priv.よりスペシャルコンテンツをお届けします。
(日経ビジネス Priv.プライヴ 2015年 春号より転載)

デジタル撮影が主流のいま、写真を撮った段階で満足してしまい、プリントまでしないことも多いのではないでしょうか。しかし撮っただけというのは、見ただけとあまり変わりません。形にすることで撮影対象と自分だけでなく、作品と向き合う新しい関係性ができます。そこに初めて〈対話する〉という時間が生まれてくるのです。

撮ること自体も主観ですが、それを自分が見たり、人に見せる手段としてもう1回違うものに仕上げるプロセスを経ることで、さらに自分の主観を吹き込むことができます。これは先ほどの関係性において、対話の時間が増すということなのでしょう。

家庭用プリンターを使い、わざわざ専用紙を買わなくとも市販の画用紙やコピー紙、余っていた障子紙などでも結構です。まず興味をもって自由にいろいろやってみることです。

上の作品は木炭紙に水彩で着色してからプリントしました。最初はプリントした写真が寂しかったのでアクセントを入れようと思い、後から着色してみたのですが、どこかうまくいきすぎる。あざとさ、とでもいうのでしょうか。技巧に走りすぎて、写真というよりもデザイン的になってしまいました。そこで着色してからプリントしたら微妙なズレが出て、予期せぬものになりました。これも、偶然性が生んだ美しさです。

プリントという、終着点と思われるところをさらに出発点にする面白さでしょう。もちろん、通常の写真紙でプリントすることも大切です。これが基準値となり、そこから自分のイメージを膨らませることができますし、仕上がりとの違いを比べるのも楽しいですね。

やってみると半分は絵を描いているような感覚であり、写真から少しジャンプした気持ちになります。表現にしても写真的というよりも、より自分自身に近づいてくるような。さらに深く考えていくと、美しさとは何か、自分が感じているものを他人も同じように感じるのかといった問いかけに至ります。そうなると、観念も変わってきます。

こうした表現は、従来のフィルム現像では手軽にはできませんでした。その一方でカメラもプリンターもより高性能になっていますが、技術の頂点を求めるだけでなく、あえてずらしていくのも表現の面白さだと思います。みんなとは違う方向を向くことで、全然違う景色が見えてきます。それは発想の転換であり、ちょっと知的な遊び。パネルに貼って自宅に飾っても楽しめますので、ぜひ挑戦してみてください。

3 points.

・写真はプリントすることであらためて作品に向き合い、完結する。
・特別な用紙を使わずとも、着色などの手法を加えて表現するのも楽しい。
・考えてもみなかった、偶然が生み出す美しさに出合うことも。

戸田嘉昭 Yoshiaki Toda
静物写真家

1947年生まれ。ストックホルム大学附属写真専門学校卒業。品格のある美しい静物写真で多くの雑誌編集者から支持を集めている。特に腕時計、宝飾品、化粧品の撮影に定評がある。写真スタジオ㈱パイルドライバーを主宰し、後進の育成にも努めている。日本写真家協会、日本広告写真家協会会員。

Photography
:by Yoshiaki Toda
Text
:by Mitsuru Shibata
Composition
:by Yoshiko Takahashi
Priv.
日本を担うリーダーのためのNO.1ビジネス誌、日経ビジネスの自宅定期購読者にお届けする女性ターゲティングメディアの先駆けとして2000年に創刊。プライヴは読者の「ワーク ライフ バランス」を充実させる上質かつコンテンポラリーな選りすぐりの情報を、美しい写真と独自の視点でご紹介し、数多くの反響と共感を頂いて参りました。