Photography by Yoshiaki Toda

戸田嘉昭の写真レッスン 人生の美しい切り撮り方
旅の写真は裏切りから始まる

日経ビジネス定期購読者のためのライフスタイル誌Priv.よりスペシャルコンテンツをお届けします。
(日経ビジネス Priv.プライヴ 2014年 秋号より転載)

旅に出ると楽しい思い出を写真に残したくなります。普段の生活や環境から離れ、それこそ観るもの、聞くものすべてに興味が湧き、いつどこでもシャッターチャンスになります。ただ一般的に旅の写真というと記念撮影や観光地の景色になりがちですが、視点を変えると何気ない風景も違って見えてきます。

旅先にはまずガイドブックなどを見て、イメージを膨らませて行くわけですね。僕もそう。ところが聞くと見るとは大違い。現場に行ってみると期待は必ず裏切られます。でもこんなハズじゃないとそこから探し出すのが面白い。最初のイメージに固執することはありません。旅の思い出に残るのは、そうした想定外のこと。その土地に暮らすひとにとって日常であることが旅人にとっては非日常であり、旅の魅力とはそのギャップに触れることだと思います。

イスタンブールで撮ったこの写真はすごいでしょ。延々と続く通りにこんなに人が溢れていて、絶対スリとかいそう(笑)。まるで祭りのように、人間の血が沸騰していますね。写真としては何の変哲もないけれど、エネルギーが強い。

そのパワーを目の当たりにした時、自分がどのように反応するか。それも写真の醍醐味ですね。受け止めるか、負けてしまうか。精神的に疲れていたらカメラも向けられないでしょう。絵にはならないものですから。でもそれを残せるのは写真しかない。そこには単なる光景の記録だけでなく、対峙した自身の感情も映し出されるのです。だからこそ旅から戻っても、写真を見た瞬間そこにいた時のワクワク感や、裏路地に行ったらもっとすごいのかなとか興奮した気持ちが蘇ってくる。まさにエキサイティングです。

でも気負って立ち向かうことはありません。この写真を撮った時も、気持ちは高揚しながらも撮る行為自体は自然だったと思います。周囲も僕の存在はまるで郵便ポスト程度にしか感じなかったのでしょう。それが相手に意識させず、自然な1枚になったのだと思います。

気をつけなくてはいけないのは、旅先でつねに撮影を意識するあまり、旅自体を楽しめなくなること。これでは本末転倒です。運動会のお父さんたちもそう。ビデオやカメラのファインダーを通してしかわが子の姿を見ていません。ファインダーって虚像ですから。だから旅先でもファインダーを覗くことよりもまず周囲を見ることですよ。

3 points.

・当初のイメージにとらわれることなく、視点を変えてみる。
・撮る相手にはことさら自分を意識させない。自然な意識で。
・撮影以前にまず旅を楽しむこと。その気持ちが写真にも込められる。

戸田嘉昭 Yoshiaki Toda
静物写真家

1947年生まれ。ストックホルム大学附属写真専門学校卒業。品格のある美しい静物写真で多くの雑誌編集者から支持を集めている。特に腕時計、宝飾品、化粧品の撮影に定評がある。写真スタジオ㈱パイルドライバーを主宰し、後進の育成にも努めている。日本写真家協会、日本広告写真家協会会員。
Photography
:by Yoshiaki Toda
Text
:by Mitsuru Shibata
Priv.
日本を担うリーダーのためのNO.1ビジネス誌、日経ビジネスの自宅定期購読者にお届けする女性ターゲティングメディアの先駆けとして2000年に創刊。プライヴは読者の「ワーク ライフ バランス」を充実させる上質かつコンテンポラリーな選りすぐりの情報を、美しい写真と独自の視点でご紹介し、数多くの反響と共感を頂いて参りました。