デザインの源泉は、日常に起こることのすべてから。

インゲヤードさんのガラスや陶器は極めてシンプルだが、そのフォルムやデザインにはどこか女性らしさも漂う。凛とした静謐さをたたえながら、引き込まれるような優しさと磁力を放っている印象がある。

「私が作るものは日常生活に直結しています。まず自分が使いたいもの、自分にとって使い勝手のよいものをデザインします。願わくは、それが他の人にとってもよいものであれば嬉しいですね」

有田のワークショップにて。
参加者が熱いまなざしで見つめる中、インゲヤードさん自身もろくろを回して器を制作した。
「いつも制作している陶器(土)と、有田の磁器(石)は違うので、扱いがむずかしい」と語りながらも、その手さばきは滑らかで自信に満ち、見事なものだった。

そのデザインのアイディアは、どこから来るのだろう。

「読書、音楽、人と話すこと、旅、頭の片隅にあったこと……。身の回りに起こる物事すべてから。北欧の自然、歴史、伝統は私の基礎にありますし、スウェーデンの冬がもたらす雪、氷、霧は、ガラスの具体的なイメージに直結しています」

こうした自在なデザインの背景には、長い経験と実績の裏付けがある。

「美術大学を卒業後、初めて働いたガラスメーカーでは、デザインがシンプルすぎて売れないといわれて辞め、陶器の会社に移りました。その後またガラスと出合い、今はどちらも手掛けています。若いころから信念を曲げず、自分を信じて作りたいものを作ってきたことは、今思えば重要な決断でした」

感性の面で妥協しない一方、ガラスを吹く職人など、自分の手となってデザインを具現化する技術者たちをよく理解し、信頼しあう関係であることも作品の完成度を高め、魅力的にしている。

インゲヤードさんの創作の最大の特徴は、「使って初めてそのものが完成する」という、「使う人に余地を残す」デザインにある。

「それを買ったとき以上の喜びや驚きを、使った人に感じてほしいのです」

例年夏を過ごすスコーネにあるインゲヤードさんの家とアトリエ。
左手のモダンな建物が陶器を作る工房になっている。
モノトーンを中心にした作品が収められた、インゲヤードさん自身の食器棚。
ガラスと陶器で同じデザインのものもあり、
一貫したセンスとアーティストとしての信念を感じさせる。

「使われてはじめて私のデザインの価値が生まれる」という哲学は、有田でのワークショップにも表現されていた。彼女の指揮のもと、15人の参加者に「水を飲む行為」というテーマが与えられ、各人のデザインスケッチを検討しながら、ひとりひとりと対話を重ね、有田の職人の助けを借りて参加者みずからろくろを回すという作業が行われた。

「水を入れるだけで器は変わります。水の気泡、水のライン、水の量、そういったものがデザインに表情を与えるのです」

自分が考えたものを自分で使うとき、どう見え、どう機能するのか。そのことを示した貴重な体験だった。

有田でのワークショップの風景。
今まで、どれほど要請されても引き受けることなく、
今回がインゲヤードさんにとって初の貴重なワークショップ開催となった。
インゲヤードさんのアドバイスのもと、スケッチしてろくろをひき、道具が作られた。
写真は、有田の職人の力を借りてろくろをひき終わったばかりの各人の作品。
デザイナーとして、女性として。
スウェーデンでの創造的な暮らし。
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