究極の贅沢をデザインする~自然と共生する暮らし

2015年4月、東京が満開の桜に彩られた春の日。 六本木のスウェーデン大使館において、「究極の贅沢をデザインする~自然と共生する暮らし」と題したスペシャル・トーク・セッションが行われた。

『日経デザイン』元編集長で現在、「意と匠研究所」代表を務める下川一哉氏をモデレーターに、英国生活を経てガーデン&プロダクトデザイナーとして活躍する吉谷桂子氏と、スウェーデンハウスで商品開発にあたっている松永由起子氏とともに、「人にとっての本当の豊かさ」「これからの住まいに求められる価値」について語り合った。

北欧・スウェーデンと日本に共通する、自然とのつながり方、そして究極の贅沢な暮らしとは──。

人類にとって最も大切な芸術 ── それは「美しい家と庭である」

下川 

今日は皆さんと、「究極の贅沢をデザインする」というテーマでお話ししたいと思います。吉谷さんは、イギリスでガーデニングを学ばれる以前は、デザイナーとして活躍していらしたそうですね。

吉谷 

ええ、工業デザインやテレビのCM制作に関わっていました。ちょうどバブルの頃で仕事は充実していましたが、心のどこかで、「このままで、日本はどうなってしまうだろう」という不安を抱えていました。学生のときから旅行が好きで、特にヨーロッパをめぐっていると、人々の暮らしがとても豊かで美しいと感じたんですね。どこがどう日本と違うのか。その答えを見つけに、夫とふたりで思い切って、イギリスに住んでみることにしたのです。

「意と匠研究所」代表
下川一哉 氏

下川 

住宅にしろ家具や家電にしろ、表面上のデザインは西洋化されたけれど、本質的に大切なものが欠けていると感じられたのでしょうか?

吉谷 

でもそれが何なのか、なかなか分からなくて。最初は建築やインテリアのようなプロダクト・デザインで解決できないかと考えていたのですが、あるときイギリスの詩人で、近代デザインの父といわれるウィリアム・モリスの「人類にとって最も大切な芸術とは何か」という言葉に出合ったのです。彼はそれを、「美しい家と庭である」言っています。つまり草や花、自然との関係が人の暮らしを豊かにするんだわ! と気が付いて。それがガーデン・デザインを学び始めるきっかけになりました。

下川 

スウェーデンハウスで商品開発にたずさわる松永さんは、ヨーロッパ、特に北欧の住まいと自然の関係についてどうお考えですか?

松永 

スウェーデンは長く厳しい冬が終わり、春から夏、秋にかけて気持ちのいい季節になると人々は積極的に自然を暮らしに取り入れます。スウェーデンには「自然享受権」という慣習法があって、これはすべての人が自然の中に自由に立ち入って活動できる権利のこと。畑や宅地に近づかなければ、私有地であってもキノコやベリー類を採ったり、テントを張って泊まったりすることが可能なのです。

下川 

それは素晴らしいですね!

松永 

自然はみんなのもの、みんなで慈しみ、楽しもうという文化があります。森や自然から恵みを受け取りながら日々を過ごすことが、スウェーデンの人々の豊かなライフスタイルにつながっていると思います。

吉谷 

人間はもともと自然の中で暮らしてきた生き物ですから、疲れやストレスを感じたとき、木々の緑や草花に触れることで、すーっと気持ちが安らぐ。ガーデニングのように土を掘ったり枝を切ったりというアクティブな行動をしなくても、窓から庭の緑が見えるだけで、元気になれるでしょう? 日本に戻ってから建てた住まいでは、窓の外にオリーブの木を植えました。大きく育った木の枝にはバードフィーダー(餌場)を取り付けていますが、そこにメジロやホオジロなどの小鳥が餌を食べに来る姿を眺めていると、「私はなんてゴージャスな時間を過ごしているのだろう」と思います。

下川 

日本の、特に都会に暮らす人間は「自然に触れよう」と思うと、まずは車か電車に乗って出かけてしまう(笑)。わざわざ遠出しなくても、身近に自然のある暮らしを忘れてしまっているのではないでしょうか。

松永 

歴史的にみれば日本の住まいも、庭に面して縁側を設けたり、雪見障子のように景色を愛でるためにしつらえることを大切にしてきました。自然を住まいに取り入れる暮らしを心地いいと思う感性は、今も私たち日本人に受け継がれていると思います。

「アウトサイド・イン、インサイド・アウト」で空間に心地いい広がりを

スウェーデンハウス株式会社
松永由起子 氏

下川 自然を取り入れた住まいというと、松永さんたち開発チームが手がけた「ヒュース プレミエ ゴーデン(hus Premie Gården)」が思い浮かびます。

松永 屋外と屋内の垣根をなくし、人と自然を限りなく近づける。そんなコンセプトで開発した、新しいライフスタイルのご提案です。暑さや寒さなど厳しい環境から住む人を守るシェルターとしての役割と、自然と一体となった時間を楽しむことができる開放感。一見、矛盾するこの2つの要素を両立させた「究極の邸宅」をお届けしたいと考えました。

下川 特徴的なのは、半屋外空間の「コンバーチブルガーデン」を備えていることですね。大きな木製折戸を開閉することで、季節ごとの自然の心地よさを感じ、楽しむ贅沢な空間が生まれます。

吉谷 

このプランを見て私が思い出したのが、イギリスで知った「インサイド・アウト、アウトサイド・イン」という考え方です。屋内(インサイド)にあるものを屋外(アウト)へ、たとえば椅子やテーブルをお庭へ出して、お茶や食事をする。夕方に、ビールやシャンパンを楽しむのもいいですね。それとは逆に、屋外にある環境(アウトサイド)──庭の植物を屋内でも育てたり、天窓から光を入れたり、風通しをよくするなど自然を上手に屋内(イン)へ取り入れた暮らしのことです。

下川 

夏休みに、家の縁側でスイカを食べたことを思い出しました(笑)。

吉谷 

もう一つイギリスのインテリアやガーデニングでは、「リレーティブ(連続性)」と、「レイヤード(重なり)」という言葉をよく使います。屋内だけ、屋外だけと別々に分けないで、ゆるやかにつなげていく。たとえば庭の植物が見渡せる窓に、ちょっと緑色の入ったカーテンをかけて、その手前のテーブルにはグリーンを生けてみるというふうに、外と内をゆるやかにつなげていくアイデアです。ロンドンも住宅の面積はそれほど大きくないのですが、窓の外とインテリアをつなぐことで、感覚的にも自由な広がりを味わおうという、生活の知恵なのだと思います。

もてなしのガーデンとくつろぎのガーデンの
2つを持った理想の住まい
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