自分にとって最高にくつろげるわが家、
安らぎの場をつくるには

家族がいると、「自分がやらなくても、誰かがやってくれるだろう」「トイレの掃除は自分の役割じゃない」などと考えてしまいがちだ。
「人に何かしてもらって当たり前と思っているうちは、人として成熟できていない。本当の意味で人が大人になるのは、『これまで自分は人にしてもらってばかりいた。これからは、自分が人にしてあげる番だ』と思った瞬間ではないでしょうか」

暮らしを大切にすることの意味を知るには、鎌倉時代の禅僧・道元の記した『典座教訓』(てんぞきょうくん)を開いてみては、と松浦さん。

「道元は留学した南宋で、身分の高い老僧が、下の者たちの食事をつくり、雑事を行っているのを見ます。作務(さむ)も大事な修行だからという解釈もありますが、それよりも僕は、地位の高い者ほど人の嫌がる仕事をすること、他者のために働くことの大切さを伝えてくれる教訓だと思います」

家事を担う上でもう一つ気を付けたいのが、「ギブ・アンド・テイク」の考え方だという。

「僕はこの言葉が、好きではありません。『あなたはこれをしてくれたから、自分はこれをしてあげましょう』という。しかしそれは裏返せば、『自分はこれだけやったのに、なぜあなたはこれだけしか返さないのか』と不満のもとになります。困っている人を助ける、誰かを喜ばせたい。そうしたシンプルな気持ちで、できることをやっていけばいい」

そうはいっても、何かしら頑張ったことへのご褒美がほしい。大掃除に向けて自分のモチベーションを高めるには、どうしたらいいだろうか。

「普段は外で忙しく働いているならば、住まいのなかには安らぎの場がほしいと願うものでしょう。しかし安らぎとは自分の心の問題ですから、先ほど言ったように『誰かにしてもらう』だけでは理想の姿にならない。どうしてもどこか、リラックスできないはずなんです。他人ごとではなく、当事者として関わることで得られる喜びも大きいものです」

たとえばリビングをより居心地よくするために、ソファの位置を変えてみたり、物が散らからないように収納を増やしたりしてみる。カーテンやラグなどのファブリックを洗う、照明のホコリをぬぐう、窓を拭くといった大掃除も、その場所で休日にゆっくりくつろぐイメージを思い浮かべれば、作業も楽しく進められそうだ。

子育て中の家庭では、ぜひ家族みんなで大掃除を楽しんでみては、と松浦さん。

「お父さんとお母さんが、一緒に何かをしている。仲良く協力しあって難しそうな作業をしている。そんな姿を見るだけで、子どもはうれしくなるものです。お父さんは、高い所に手が届いてすごいなあとか。お母さんが磨いたら、窓がぴかぴかになったとか。子どもにも、できることはどんどん手伝ってもらうといいですね」

もちろんスケジュールが合わなければ、それぞれ別の日に作業をしてもいい。「そのときも、『ベランダを掃除してくれてありがとう』『お風呂場がきれいになってうれしいね』と、互いに感謝したり褒め合ったりしてみましょう。そうして家族のそれぞれが、掃除は楽しい、家のことをするのはいいことだと思えば、毎日の暮らしも大切にできるようになるでしょう」

思い返せば自分たちが子どものころにも、年末の大掃除が、家族の大事な記憶として残っているのではないだろうか。そうしてきれいに整えられた住まいで、新しい年を迎え、親しい人をもてなす。

「そうした時間を楽しむことが、本当の意味での心の豊かさなのだと思います」

Photography
:by Toru Marumo
Text
:by Mary Yamada
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