一生、自分の歯と付き合うためにしておくべきこと

食べることは、人にとって生きるための基本、かつ大きな楽しみだ。そして、食事をおいしくいただくためには、歯が健康であることは欠かせない。ならば、歯を健康に保つことが、人生を充実させる鍵のひとつだといっても過言ではない。 そこで、歯を健康に保ち、生涯自分の歯で過ごすために、日ごろから行っておきたいメンテナンスについて、長年、口腔内ケアの重要性を説いてこられた歯科医師に話を伺った。

ほとんどの虫歯は、歯を抜かなくても治療可能?

「歯科医から抜歯が必要と言われても、簡単に歯を抜かれてはいけません」と語るのは、今回伺った「サイトウ歯科」の齋藤博先生。日本一の巨大ターミナル駅、新宿駅から徒歩5分という立地の「サイトウ歯科」が開業したのは1977年。齋藤先生は、開業以来、当時はまだ珍しかった、歯を長くもたせるための口腔内ケアを続けてきた。

冒頭の言葉は、歯は一度抜いたらもう生えることはないのだから、当然といえば当然。しかし、先生がそう語った理由はそれだけではない。歯を抜いた影響は、他の歯にも及ぶというのだ。

食べ物をかむ際、歯には非常に大きな力がかかる。そして、通常は、その力を隙間なく並ぶ歯全体でうまく分散させているのだ。しかし、歯を1本でも抜くと、そのバランスが崩れ、他の歯への負担が大きくなる。たとえ、抜いたところに人工の歯を入れたとしても、バランスは崩れたまま。それ故、歯は抜いてはいけないのだ。実際に「サイトウ歯科」では、自分の歯を一生使ってもらうために、歯を削ったり、抜いたりする治療は極力行わない。「虫歯の治療には抜歯もやむなし」と思いがちだが、それは事実ではない。齋藤先生は次のように語る。

「歯を失う主な原因は、虫歯と歯周病の2つですが、虫歯は適切な治療とメンテナンスを行えば、ほとんどの場合抜かずにすみます。一番怖いのは歯周病です。歯周病は単なる歯肉の炎症だと、勘違いしている方も多いようです。初期はそうでも、重症化すると歯肉の奥で歯を支える歯槽骨(しそうこつ)という骨が減っていく病気で、最後には支えがなくなった歯が抜け落ちてしまうのです」

そんな歯周病の予防には、「正しい歯磨きを行い、歯周ポケットの中の歯垢(しこう。プラーク。歯周病や虫歯の原因となる細菌のかたまり)を除去するのが効果的」とのことだ。歯周ポケットとは、歯と歯ぐきの間の隙間のことで、細い溝のようになったこの場所には、歯垢がたまりやすい。そして、健康な歯肉の場合、溝の深さは1~2ミリだが、歯周病が進行するとどんどん深くなっていき、歯槽骨を溶かしていくのだ。

歯を磨くのではなく、ブラッシングでプラークを吸い取る

では、正しい歯磨きは、どのようにすればよいのだろう? 齋藤先生は「バス法」というやり方を勧める。具体的なやり方は以下の通り。

「歯の表側をブラッシングする際は、歯と歯肉の境目に対し、歯ブラシを45度の角度であてます。このとき、歯周ポケットの中にブラシの先端が入るように歯ブラシを少し押し込んでください。そして、毛先は動かないようにして、柄だけを小刻みに10回ほど左右に動かします」

歯磨きといっても、歯を磨くのではなく、ブラシに軽く振動を与えることで毛細管現象を引き起こし、プラークを吸い取るイメージだという。

「前歯の裏側は、ブラシを歯の並びに対して直角になるように持ち、上下に振動させます。歯を一本一本、意識して、こちらも10回ずつブラッシングしてください」

以上の要領で、上の歯の表→裏、下の歯の表→裏とブラッシングしたら、次はかみ合わせ面。

「かみ合わせ面は、歯の並びと平行にブラシを置き、表面の溝に差し込むように毛先をあてます。そして、そのまま10回小刻みに動かしてください」とのことだ。

正しい歯磨き方法が分かったところで気になるのが、歯磨きのタイミングと回数。今では携帯用の歯ブラシなどを持ち歩き、職場などで歯磨きをする人も増えているようだが、やはり回数は多いほうがいいのだろうか?

「プラーク発生の原因である砂糖を減らした食生活を送り(詳細は後述)、磨き残しがないようにきちんとブラッシングできれば、歯磨きは一日1回で十分です。いい加減なことを何十回やってもあまり効果はありませんので。とにかくプラークを満遍なく除去することが重要です。磨く時間は、朝でも夜でも、食事の前でも後でも、毎日決まった時間に行うことができればいつでもかまいませんよ」

意外に思える答えだが、一日に何度も歯磨きをしてしまうとかえって、歯そのものや歯肉をすり減らしてしまうので、あまりお勧めしないとのことだ。同じ理由で、力任せにゴシゴシ磨くのもNG。

「歯にかかる力は100~150gくらいで大丈夫。ペンを握るように軽く持ってください。『こんな軽い力で本当にプラークが取り除けるの?』と心配に思われるかもしれませんが、プラークはトロッとしたお粥(かゆ)状なので十分除去できます」

弘法筆を択(えら)ばず? 大切なのは道具よりも磨き方
1  2