皿が運んでくる大きな世界

家と深く関係する、と僕が思っているものは食器です。ミニマリストたちは、シンプルな食器を数少なくもって、それを多目的に使うのをよしとするようですが、僕は、食器の種類と日常の幸福度はあるていど比例するのではなないかと思っています。

たとえば素材だけみても、漆器、陶器、磁器、金属、ガラス。形状もさることながら、素材と料理の相性は大きいように思います。たとえば、ガラスはテーブルの色をうまく生かせば洒落た演出ができるし、金属は光の反射という絵柄とは別の美的要素をそなえます。

レストランに行くと、ときどき位置皿(いちざら)なるものがテーブルに置いてあります。全員が着席して料理が始まる前に下げてしまうこともある特別なお皿です。食器というと、僕にはこの位置皿に特別な思い出をもっています。

北イタリアの個人邸での食事に招かれたときのことでした。もと貴族なので、先祖代々の館を使っているそこでは、天井にフレスコ画が描いてあるぐらい、由緒ただしそうな雰囲気でした。食器がセッティングされたテーブルには、各席にぴかぴかに磨きあげられた位置皿が置いてありました。そしてそこにはなんと、天井のフレスコ画が映りこんでいるのです。皿にはこういう使い方もあるのだと、感心しました。

ということは、まあ、さておき。僕は以前は真っ白い、いわゆるボーンチャイナの食器が好きでした。でもだんだん、漆器の深い色と手触りが好きになり、そして昔は敬遠していた九谷の絵皿が美しいと思うようになりました。種類が豊富だから、歳とともに変化する美意識にも対応してくれる。そこが多様性に富む日本の食器の美点だと、最近つくづく思っています。

池島直人(石川県 九谷)
吉田屋意 象図楕円鉢・・・¥10,800(税込) 16㎝×15㎝×高さ6㎝
京都で修行した繊細な筆のタッチを、
九谷の鮮やかな色合いに生かした魅力的な絵付けに、
注目が集まる作者です。
写真提供:暮らしのうつわ 花田
玉山保男(岩手県 浄法寺)
本朱椀・・・¥7,020(税込) 口径11㎝×高さ7㎝
国内最高品質の浄法寺漆をふんだんに使用しています。
掌のなじみ、口に当てたときのやわらかな感触は国産漆ならではのもの。
落ち着きのある朱色と洗練されたフォルムは、現代の食卓に自然に馴染みます。
写真提供:暮らしのうつわ 花田

作家の谷崎潤一郎が「陰翳礼讃」という日本の審美観をめぐるエッセイで、漆器で汁をのむよさを「椀の中の闇」と表現しました。こうなると、部屋の光線まで考慮しなくては、最高の料理と食器の関係が構築できないかもしれません。げんに、日本料理店はとりわけ気を使っているように思います。

ことほどさように、ひとつの素材に無数のストーリーがみつかるのが、食器のいいところです。だから僕は、できれば広い食器棚をつくって、あらゆる食器をしまっておきたいと思うのです。個人作家のものから、伝統工芸品、ときどきはアラビアのムーミンシリーズだって、いいではないですか。

僕の楽しみは、好きな食器屋に行くことです。このお皿にはこんな料理が合いそうだなと食いしんぼうまるだしの連想することもあれば、たんに食器の美しさにほれぼれすることも。先だって、バリ島のアマンリゾーツに泊まったときは、葉っぱを皿に使ったランチが提供されました。なんとも楽しい食器の世界です。暮らしを豊かにしてくれます。

小川フミオ

自動車とカルチャーを融合させた『NAVI』(二玄社)、日本で最も歴史ある自動車誌『モーターマガジン』(モーターマガジン社)、『アリガット』(IMAGICAパブリッシング)の編集長を経て、2004年よりフリーランス。著者に『カルロス・ゴーンへの警鐘』(02年刊、阪急コミュニケーションズ)、『ひとりで行ける上質ごはん』(東京書籍)他、多数。