ジャパニーズウイスキーの強みとは?
ウイスキー殿堂入りブレンダー輿水精一さんに聞く

最近、ジャパニーズウイスキーが世界的にもブームだという。希少なものは品薄で入手困難だったり、オークションで値上がりしたりしているそうだ。

そんな日本のウイスキーの奥深さや華やかさ、おいしさを私に教えてくれたのが、ブレンダーの輿水精一さんだ。初めてお会いしたのは10年近く前。まるで、ウイスキーブレンダーになるために生まれてきたようなお名前だ、と驚いたのを覚えている。

ブレンダーとして24年間現場に立ち続けた後、昨年からはサントリーの名誉チーフブレンダーとして日本のウイスキーの魅力を伝えている。現役時代、「響21年」をはじめ、手がけたウイスキーが世界的な酒類コンペティションで多数の最高賞を受賞。さらに今年、世界的なウイスキー専門誌『ウイスキーマガジン』が認定する『 Hall of Fame(ホール オブ フェイム) 』を受賞し、日本人として初めて"ウイスキー殿堂入り"を果たしている。いわば、ウイスキーの申し子だ。

どんな原酒をつくるか、どんな樽で熟成させるか、どのくらい寝かせ、いつ使うか、どんな組み合わせで商品をつくるか…ウイスキーづくりのほぼすべての工程に関わるブレンダーとしてウイスキーと長年付き合ってきた輿水さんに、日本のウイスキーづくりのすごさ、そしてウイスキー人気の秘密について伺った。

ブラックボックスな部分が多いからこそ、
ウイスキーづくりは面白い

住吉「お久しぶりです。ウイスキーマガジンのホール オブ フェイム受賞、おめでとうございます!『日本でこれほどウイスキーに貢献を果たした人はいない』という受賞理由も読みました。すごいことですね」

輿水「ありがとうございます。大変嬉しく思います。」

住吉「世界からも認められた輿水さんにとって、ウイスキーづくりの面白さはどこにあるんですか?」

輿水「他のお酒と比べて、ブラックボックスな部分がすごく多いところですね」

住吉「ブラックボックス? 例えば?」

輿水「熟成というのも典型的なブラックボックスですね。熟成するとはどういうことか、まだまだ分かっていないんです。熟成する前と熟成した後で成分の変化は説明できても、それがウイスキーのおいしさを語っているわけではないんです。もともと麦のお酒が、どうしてあんなにフルーティーになるのか、とか。口に含んだ時の感触も全然違いますからね。説明できているようで、できない。だからブレンダーは、熟成させた原酒を結局全部テイスティングするわけです。そして、ひと樽ひと樽『これは何に使ってあげよう』とか『これは将来もっといいものになりそうだから、大切にとっておこう』とか個別に決めていきます」

テイスティンググラスをゆっくりと回しながら、静かに、香りと味を確かめる輿水さん

住吉「なるほど、ブラックボックスでやり方が確立できないからこそ、樽の中での変化に対しての丁寧な対応が求められるんですね。特長をなるべく活かして、おいしいものをつくる。なんだか、ある意味、主婦みたいですね。冷蔵庫の中をあけて、あるものでおいしいものをつくるような」

輿水「本当ですね。ある種、まかない料理的な感覚は必要です」

住吉「柔軟性ですね」

輿水「ただ、若い人には『まかない料理ばっかりやってちゃだめだ』と言います。『自分はブレンダーとして何がつくりたいのか』というところを意識することで、今サントリーが持っている原酒の中で足りない要素がはっきり出てくるからです。それが技術課題になる。上手にまかない料理ばっかりやっていては、10年後の進歩がないんです。だから、まかない料理をする一方で、常にブレンダーとして目指すところを持っていないといけない」

住吉「信念の軸と柔軟性と、両方必要なんですね。それって、本当は誰もが人生の舵取りをするうえでも大事なことですね。どちらかに偏ってしまいがちですけど」

輿水「現在、原酒の樽は全体で80万樽程あって、それぞれの樽の質や量をコンピューターで管理しています。この80万樽で、5年後、10年後も安定した製品を届けられるよう、シミュレーションしながらレシピを決めているのですが、熟成具合はひと樽ひと樽違うので、我々がつくったレシピがコンピューター上でOKが出ることは、ほぼありません。そこを、『まぁなんとかなる』と判断するのが、人間の感覚なんです。ブレンダーが10年20年やっていくなかで、『この原酒は将来なくなるけど、なんとか他の原酒の組み合わせでいける』という、根拠はないけれど先を見通す力が大事なんです」

住吉「ブラックボックスでありながらも、熟成前と熟成後の変化の感覚を経験からどれだけ培えるかということなんですね」

輿水「それが出来ると、ひとつひとつの原酒を見たときに『これはちょっと熟成が遅いよね』とか、『本来持っているこの樽のキャラクターが出ていないよね』といった正確な評価ができるようになります」

ウイスキーを通して飲むのは、
日本ならではの「自然」と「時間」
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