2軒目は浅草ホッピー通りのお店『正ちゃん』

1軒目で元気のでるお話を伺いながらおいしいお酒とお料理をつまみ、次に向かったのは浅草六区通りから程近い、浅草ホッピー通りのお店『正ちゃん』。

こちらは創業64年! まだ浅草にひょうたん池があり、戦後、池の周りが屋台街だった頃からあるお店です。屋台の名残で、調理も客席も外と中が半々。

店先で煮込みを見守る大将。
photo by niŭ

うちの煮込みは南無観世音菩薩にちなんだヤマサ醤油を使っているよ、と大将の高島文雄さん。ヤマサ創業者の娘さんの夢に浅草観音が現れ、ヤマサの商標を示したという……浅草寺にちなんだありがたい逸話があるそうです!

江戸前な味が濃いめの牛スジ煮込みは、もっちりしたお豆腐との相性が抜群。3時間以上煮こむのだとか。取材時は屋外でかなり寒かったので、この牛スジ煮込みと熱燗をいただきながらお話を伺うことに。

お店一押しの牛スジ煮込みと手羽先の煮込み。

『正ちゃん』では牛スジ煮込みの他に手羽先の煮込み、ツブ貝がオススメとのことで、追加でこちらもいただきました。手羽先もよく味がしみて、お酒との相性抜群。ツブ貝もプリプリ。おだしがしみて、ため息が出るほど熱燗によく合います。まれに、ご主人と同じ北海道ご出身の奥さまの作る粕汁が裏メニュー的にふるまわれることもあるよう。

「みんな楽しそうに飲んでるのがいいよね~、たまに混ざって一緒に飲むんだよ」と笑顔のとっても優しい大将です。

浅草にお店を構えた先代は、大将のお父さん。大将が3歳のときに北海道から移り住んで、始めたお店だそう。当時のモノクロ写真を1枚、見せてくださいました。ひょうたん池が埋め立てられた後にできた遊園地の『楽天地』と屋台が隣接していた様子が見えます。ここは都内で最初にジェットコースターができたところで、当時は黒山の人だかりだったとか。

「川端康成の『浅草紅団』という小説を読むと、当時の様子がわかるよ。木馬館のあたりには水族館や昆虫館まであったらしいよ。当時は剣劇やショーとかもいっぱいやっていてね、活気があったんだよ」。まさに戦後浅草の生き証人! 古きよき浅草への愛情をひしひしと感じるお話に、私も純粋に浅草という場所への興味がかき立てられました。

『正ちゃん』には以前、あのデビッド・ボウイもお忍びで来店したことがあるとか。

「よく知らないけど、お客さんが騒いでるからサインもらったんだけど……どっかいっちゃった(笑)! そのあと『戦場のメリークリスマス』とかいう映画で、ああこの人だったのか、って思ったんだよねぇ」

ああ…なんてうらやましいエピソード!

そんな『正ちゃん』ですが、2月後半~5月いっぱいまで、お店の改装工事のためお休みになるそう。装い新たに、さらに魅力的になるであろう『正ちゃん』が、今から楽しみです。

取材の後は、スタッフと一緒に新年会を兼ねてまた別のお店へ(3軒目)。お酒を飲みながらリラックスして話すと、仕事でしか会うことのなかったスタッフの普段聞けないような話をポロポロと聞くことができるのがよいなあ、としみじみ思いながら帰途につきました。

浅草の魅力あふれる店主が営む老舗飲み屋さん巡り――――――

それはただ酔うことよりも、おいしい物、すてきな話をさかなに、楽しい時間を共有することだ、と再認識。メールでも電話でもなく、直接おいしいお酒とさかなを挟んで話をすることで、自然と人が好きになる、いとおしくなる、優しい気持ちになる……。大人の飲みの作法、これはもしかしたら、人間関係が潤う最良の方法かもしれないな、と思います。

浅草六区の34枚目
『捕鯨船』の船長、河野さん責任監修の六区ゆかりの方たちの看板。永井荷風から最近の芸人さんまで、33人にオッケーをもらうため、河野さんが一人一人ご本人、もしくはそのご家族に手紙をだし、プロフィールを調べて作った渾身の看板です。さて、話題の「予約済み」と書かれた空白の34枚目の看板に誰が入るのか……という謎、某テレビ番組ではすでに明かされた秘密とのことですよ。下町の粋な計らいですね。
photo by niŭ
Photography
:by Daisuke Kitamura / niŭ
Text
:by niŭ(page2 to 3)

捕鯨船(ほげいせん)

住所:東京都台東区浅草2-4-3
営業時間:[月・火・水・金]17:00~22:00 [土・日・祝]16:00~22:00定休日:木曜
予算:2,000~3,000円
TEL:03-3844-9114

正ちゃん(しょうちゃん)

住所:東京都台東区浅草2-7-13
営業時間:[水~金]お昼過ぎ~22:00 [土・日]9:00~20:00※牛煮込みがなくなり次第終了
定休日:月曜、火曜
予算:1,000~2,000円
TEL:03-3841-3673

niŭ (にゅう) 

1972年生まれ。アーティスト、モデル。多摩美術大学で映像を学ぶ。 モデル、デザイン、イラストレーションの仕事をしながら、 独学で絵画、彫刻を制作。2012年よりアーティスト活動を中心に据え、エキシビションにも多数参加。箱根POLA美術館の遊歩道に小さな彫刻のブロンズ像が11体、展示されている。

1  2  3